今日の投稿は、今週初めにフジテレビSPORTSのYouTubeチャンネルで公開された、全日本(フリー)から一夜明けのインタビューを観ての”あれこれ”です。
【高度のジレンマも成長に】
全日本が終わった前夜はあまり眠れていないだろうに、いつもの通り落ち着いて答えてくれており、観る側にもその言葉で色々な思いが生まれるが、昌磨さん自身にとっても、訊かれた質問に対して考え、言葉を見つけて答えることで、それが自分の考えとして定着するのではないかなと思う。
私はこのインタビューをFODでは観ることができなかったので、いつでも見ることができるYouTubeでの公開がとってもありがたい。公開がある程度タイムリーな時期だったのもありがたい。映像に「2022.12.26 宇野昌磨 INTERVIEW」と年月日が入っているのもありがたい。いつの段階での言葉なのかはとっても大事ですもん。
インタビュアーは(何方なのかは存じ上げないが)その時と同じ方のようで、宇野選手も落ち着いて質問を聞いて答えているように思う。「(全日本では)コンディション的には絶好調だったけれども、ショート&フリーでノーミスができるってのは、難しいっすね??」というインタビュアーの質問の途中で、とても自然に「いやぁ~」と合いの手っぽい反応が入るのが良い♪
インタビューのQ&Aからいくつか引用させていただく。
…スケートは対応力が本当に必要となってくる。だって(滑走順が)1番と6番ではまた全然違いますし、(滑りに)行く氷でも違うし、温度も違うし、そりゃあもう、同じ、同じでできることなんてほんとないんで、難しいとこです。でも、そこでできるのがネイサンなんですよね。ヤバいっす。何にでもノーミスしますから。
何の世界であっても”対応力”というのは必要なものだが、それを身に付けるのは本当に難しい。しかし宇野選手が自身の気持ちの弱さとして語っていた数年前と比べると、完全に違うレベルの分析力が身についているように思う。
そして、”ネイサン、凄い!”の安定感よ~ 彼の凄さが分かるのも凄いことなのだ。多種の4回転を試合で実施するための練習と調整と対応がどれ程のものかが分かるのは、世界でも指折り数えられるくらいの人しかいない。もちろん多くのコーチ陣にとっても未知のことだが、だからといって全く分からないわけではなく、現役時代にその時代の最先端で戦っていた元選手には、どんなものなかを感じられるだろうと思う。
…フィギュアスケート…っていうものが…、正直な話をすると、どうしても今は技術にどんどん寄っていってしまっているっていうのが…、そうですね、必然とやっぱりジャンプを跳ぶ選手というのが上にくるように段々なってきていて、僕もそのルールに則ってジャンプを重点的に練習をしているんですけど、フィギュアスケートっていうものが、ジャンプだけではないんだよってところを、なんか、僕が、僕も、率先して表現できたらなと思うんですけど、でもほんとに競技者である以上、その点数を獲りに行くっていうのが一番最優先事項だと思っているので、すごい、そういった意味でも、色んな意味で、考えさせられるところはあるなっていうのはあります。
(ジュニア時代からのスケートについての話と、そこから繋がる質問を挟んで)僕は高橋大輔選手に憧れてスケートをずっとやっていたので、やっぱりその、表現が素晴らしい選手、スケーターって本当に目を惹くものがあって、僕は、何だろう、どうしてもそれがフィギュアスケートであってほしいと思っちゃうんですよね。
もちろんジャンプも凄いことですし、僕もどっちかというと今ジャンプにたくさん寄ってますけど、でも、フランスのアダム(シャオ・イム・ファ)選手とか、ホントに何だろう、プログラムを、ま、ホントに、これを表現したいっていうのが演技中に伝わってくるような演技をしていて、僕もそういう選手になりたいなって小さい頃からずっと思ってはいましたし、そういう選手が、何だろう、やっぱりトップにこないと注目されないですし、良しとされないっていう現状をみた時に、ま、ホントにジャンプと表現両方大事っていうことなんだと思うんですけど、それでもやっぱり僕は、僕が今必然とトップ、日本のトップで走れているからこそ、両方を疎かにせずやり続けることが、今後ルールが変わったりとか、そういった時に何かプラスになればなっていうのは、結構この(グランプリ)ファイナルから全日本の期間中に考えることが多かったなって思いますね。
「結構考えることが多かった」のは、最近のインタビューを見聞きするだけでもよく分かるし、今回もまた「何だろう」が繰り返し口から出るところに難しさが現れているが、友野くんのNowVoice配信でも「何だろう」が連発されていたのを聴いて、スケート界での立場は少々違ってはいても、共にベテランと呼ばれる年代になって、フィギュアスケートに対しての考えや気持ちがより深掘りされているのだろうなと思う。
表現ってなかなか言葉にはできないものだし、競技の中での表現は本当に難しいものだが、「何だろう」と真剣に考えを巡らすこと自体も、やがて氷上での表現に繋がっていくのだと思う。
「トップにこないと注目されないですし、良しとされないっていう現状」はあると思うが、日本国内のメディアでの扱いをメインに考えてしまうと、認識に歪みが生じる恐れがあると思う。日本では注目させたい選手以外がトップにきても注目させず、試合で成績を上げても取り上げないメディアが多すぎる。
浅田真央さんがTVに登場する時に、あのソチ五輪のフリーの演技が取り上げられるのは当然だが、真央さんの世界選手権での戦績が紹介されることはほぼ無い。浅田真央さんは世界選手権で3回優勝しており、男女シングルを通して日本では最多のタイトル保持者だ。
どんな競技であっても世界選手権は大きなタイトルであり、それを3回も獲得するのは極めて難しいことが分かっているから、3度の世界チャンピョンがレジェンドの扱いとなることは多い。今や真央さんはタイトルや成績というものを飛び越えているとはいえ、メディアでほとんど言及されないのはおかしなことだ。
ずっと日本国内にいて日本での取り上げられ方に慣れてくると、自身では気づかない間に影響を受けることがあるだろう。そんなところも山田コーチが海外へ!と促した理由のひとつではないだろうかと思う。
【ご立腹の話】
今回のインタビューではたくさんの「ありがたい」があったが、全日本のフリー当日の公式練習について「ちょっと噂は聞いたんですけど…」と尋ねてくれたのもありがたい! 流石!おなじみのインタビュアーさん。
訊かれて「あぁ…」とこの表情
ま、今さらね、あの時にたくさんやっても何も上手くなったりはしないんですけど、でも、何だろう、ステファンもそこを大事にしたいと思いますし、まぁ、僕もそこを大事にしたい気持ちはホントにあるんですけど、でもやっぱり、やっぱ競技者である以上、どうしてもまずは点数を獲りに行くっていうことが最優先になってしまう。
昨日の演技だって、サルコウとフリップを失敗したことによって、すごい本当に素晴らしい良い演技だったって言われない演技だと思うんですよ。やっぱりジャンプを失敗すると素晴らしい演技だとは言っていただけない。そういうのが現状だと思いますし、実際僕たちも選手もそういう気持ちでやってるんですけど、それでもなんかステファン・コーチは割と…、NHK杯の時は結構良かったんですけど…練習比で、結構ご立腹だったので、(笑いのやり取りの後)けっこうご立腹だったので。やっぱりジャンプ!じゃなく、ホントにプログラムとして見ているんだなというのは感じさせられましたし…。ん、でも、あん時はあれ以上無理だったよっていうのはありますけど。
コメントを文字で読むと表情や声のトーンが分からず、どこか割り切っているようでもあり、頑なになっているようでもあり、心配がデフォルトになっている身には心配のタネになっていたのだが、インタビューを映像で見ることができて少し安心した。まぁ、NHK杯の直後にはこんな表情では語れなかったのかもしれないけどね。
つい先日真央さんのBEYONDをご覧になった佐藤信夫コーチのコメントを目にして、現役時代のエピソードを思い出しながら笑ってしまったのだが、現役スケーターとコーチにはそれぞれの考えや思い描くものがあり、両者が完全に合致することはないと思うので、出来る限りのコミュニケーションをとりながら進んでいってほしい。
そうですね、もちろんやっぱり、よりいい成績を、よりいい点数を獲るために、より難易度の高い構成だったり、ジャンプってところを、やっぱりやるべきだって僕は思ってます。まぁ、ただ、あまりにも疎かにするフリープログラム/ショートプログラムにはしたくないなって思っていて、まぁ、でも、僕は、何だろう、選手である以上やっぱりよりいい点数を模索し続けるべきなのかなって、表現っていうのは、ホントにもう、それこそプロに転向したりして、そしたら自分のスケートっていうものを追求していけるのかなって思っているので、ここから世界選手権に向けて、今出来ていること、ホントに今年に入ってからもドンドン安定感増していて、凄くいい状態にあるとは思うので、それをより一層磨きながら、新しいことにも挑戦しながら、より高みを目指していきたいなと思っています。
世界選手権に向けての言葉には、ファンとしては言うことなし! 昨シーズンは全日本での怪我が治らないままの練習が続いて、思うようにいかなかったと思うので、今シーズンこそはシーズン後半を丸々使って上がっていってほしい。そのためにも心身の健康と共に、スケート靴が”相棒”と呼べるまで育ってくれますように。
そして、ジャンプと表現/芸術については、引き続き考えを巡らせながら、時にはじっくりと悩んでもいいと思う。以前にも書いたとおり、アマチュアのフィギュアスケート競技はルールに縛られてしまうことも多いが、私は縛られた中でいかに魅せるのかという点に興味があるし、芸術や表現を表立って追求しないからこそ生まれる芸術や表現もあると思うので、「何だろう」を繰り返しながら氷上に現れるものを楽しみにしている。
【静観】
最後に少し。
年始のおじげーみんぐのメンバー配信や、インスタ始めました!に関しては、人の数と同じ意見や思いがあると思うが、SNS上に「自分は聴いてないけど/見てないけど」という人の呟きまで出てくると、めんどくさいな~と思ってしまう。自分のアカウントでは礼儀を欠かない限りは呟くのもOKだが、ざわつくのが嫌だといういくつかのツイートについては、その人の言葉もざわつきの一つになるという自覚はあるのかな??と思ったりした。
私は昌磨さんはバッチリと準備して始める人ではないと思う。始めて、試して、間違ったと思ったら直していくと思うので、私は少なくともしばらくは静観でいいと思う。ファンがいちいち意見表明する必要もないことだしね。